皆さんは、カビによってわんちゃんの皮膚トラブルが引き起こされることもあることをご存じですか?
ご自宅のわんちゃんにフケや脱毛、皮膚の赤みやかゆみが見られる場合、カビによる感染症にかかっている可能性もあります。
これらの症状は膿皮症や乾燥肌など、他の皮膚トラブルにもみられるため見分けがつきにくいですが、代表的なものである「皮膚糸状菌症」は同居しているご自宅の動物さんや飼い主様にも感染するものであるため、早期の発見と治療が大切です。
今回は、皮膚糸状菌症の症状や原因と飼い主さんがご自宅のわんちゃんと一緒にできるケアについて解説します。
カビって何?
そもそも、カビとは何なのでしょうか?
カビは真菌(しんきん)と呼ばれる微生物の一種です。
私たちの生活に身近な酵母やキノコなども真菌の一種です。
真菌には様々な形態があり、その中でもカビは糸状の構造を持ち、広がっていくものを指します。
一般的にカビは湿度や温度の高い環境などで繁殖します。
そのため、梅雨から夏にかけて増えやすいと言われています。
また、カビは胞子を形成し、これを空気中に放出して新たな場所に広がります。
胞子は非常に軽く、空気の流れに乗って広範囲に拡散することができるため、カビは様々な場所に生息することが可能です。
カビには多くの種類があり、その中には食べ物や薬を作るために利用されるものもあれば、動植物や人間に病気を引き起こすものもあります。
例えば、これから解説する犬の皮膚糸状菌症は、皮膚の表面に感染し、脱毛や炎症を引き起こします。
カビが引き起こす皮膚トラブルは、わんちゃんと飼い主さんが快適に暮らす事の妨げになります。
皮膚糸状菌症によってわんちゃんに起こりうるトラブルを見ていきましょう。
皮膚糸状菌症について
皮膚糸状菌症に感染すると、さまざまな皮膚トラブルが発生します。
初期症状としては、部分的な脱毛やフケが挙げられます。
このとき、輪のように脱毛している部分の周りが赤くなり、かゆみが引き起こされることがあります。
これらの症状は胴体だけでなく、頭部や足周りにも現れることも珍しくありません。
また、症状が進行すると脱毛の範囲が広がり、炎症が深くなったりフケが増えたりします。
適切なケアを行わないとそのまま脱毛が進行し、場合によっては全身が脱毛してしまうこともあります。
特に子犬やシニアのわんちゃん、持病のあるわんちゃん(ねこちゃんや他の動物さんについても同様です)は感染しやすく、重症化もしやすいため、注意が必要です。
さらに、皮膚糸状菌症は人にも感染する可能性があります。
皮膚糸状菌は非常に感染力が強く、わんちゃんと触れ合ったり、抜け落ちた被毛に触れるだけで感染するケースもあります。
人もわんちゃん同様、感染すると皮膚に炎症が起き、かゆみやフケが引き起こされてしまいます。
このように、皮膚糸状菌症は様々な皮膚トラブルを引き起こし、感染させてしまうこともある皮膚病です。
上記の症状がみられた際は、早期に獣医師による診察を受けることが推奨されます。
皮膚糸状菌症の原因
皮膚糸状菌症は主に土壌や動物に皮膚に存在する下記のカビによって引き起こされます。
〇犬小胞子菌(いぬしょうほうしきん)
〇石膏状小胞子菌(せっこうじょうしょうほうしきん)
〇毛瘡白癬菌(もうそうはくせんきん)
まず、これらのカビが犬の皮膚や被毛に付着します。
経路としては、カビが生息している土壌や皮膚糸状菌症に感染している他の動物さんとの接触が挙げられます。
付着した後は、皮膚や爪、被毛に含まれるケラチンをエサとして角質層や毛包内に拡大していきます。
この際に皮膚や被毛が侵食されてしまうため、脱毛やふけが起きてしまうのです。
これらのカビはケラチンを摂取する際、ケラチナーゼなどの物質を作り出します。
この排出物に対し、皮膚細胞が免疫反応を起こすことで炎症が発生するのです。
そのため、皮膚糸状菌症の症状は上記のカビが犬に寄生し、ケラチンを食べて代謝をする一連の流れによって引き起こされていると言えます。
また、皮膚糸状菌症は環境によって悪化しやすくなります。
温度や湿度が高い環境ではカビの繁殖力が高くなるため、感染したり、症状が進行したりするリスクが上がります。
皮膚糸状菌症は感染するとどんどん症状が現れ、他の動物さんや飼い主様に感染させてしまうことがあります。
日常的なケアで感染を予防したり、感染した場合は効果的な治療を行うことが重要です。
主な治療方法
前述の症状がみられ、獣医師による検査によって皮膚糸状菌症と診断された場合、適切な治療が必要です。
治療法としては、内服薬の投与や外用薬の使用、薬用シャンプーが一般的です。
皮膚糸状菌症に使用される内容薬には、ケトコナゾール、イトラコナゾールやテルビナフィンなどの抗真菌薬があります。
これらには、皮膚糸状菌症の原因菌がいる爪や皮膚に抗菌効果を持つものなどがあり、カビの繁殖を抑えます。
そのため、4〜6週間ほどで症状を緩和することが可能です。
しかし、常用薬との併用ができない場合や副作用の可能性があるため、獣医師の指示に従って慎重に投与する必要があります。
外用薬には、感染部位に直接塗布する軟膏やクリームなどが挙げられます。
内容薬と同様、ミコナゾールやケトコナゾールなどの抗真菌成分を含む製品が一般的です。
主に局所的に作用するため、副作用のリスクが比較的低く、症状の軽減に効果的です。
使用する際は皮膚に浸透しやすくするため、症状が起きている部位の周辺の毛を刈ることもあります。
しかし、広範囲に及ぶ感染の場合は、なるべく全身に作用する内服薬との併用が推奨されます。
薬用シャンプーは、真菌の繁殖を抑える成分が含まれており、感染部位を清潔に保つために用いられます。
全身を洗浄することで皮膚表面の真菌を除去し、皮膚の炎症を和らげたり、被毛の状態を改善したりすることができます。
しかし、薬用シャンプーは刺激性が高いため、頻度や使用方法を守るようにしてください。
使用しすぎてしまうと、皮膚に炎症を起こしてしまうことがあります。
上記の治療法を並行して行うことで皮膚糸状菌症をケアすることが可能です。
いずれの治療法も行うにあたって注意が必要なため、獣医師に相談して進めるようにしましょう。
やっておきたい日常ケア
前述のように、皮膚糸状菌症は治療することができますが、なるべく感染しないことが理想的です。
また、感染してしまったとしても、獣医師に診てもらうまでに重症化を防ぐことが大切です。
皮膚糸状菌症の感染や重症化を予防するためには、日常ケアは欠かせません。
まず、獣医師による定期的な健康チェックは、皮膚糸状菌症の早期発見と重症化の予防に不可欠です。
犬の皮膚は被毛で覆われているため、初期症状は見逃されがちですが、定期的な健康チェックを受けることで、早期発見や適切な対処を行うことができます。
例えば、皮膚に赤みやかゆみ、フケが見られる場合はの兆候かもしれません。
また、健康チェックの際に適切なシャンプーの選び方、使用方法についてのアドバイスを受けることもできます。
定期的なシャンプーケアで被毛や皮膚を清潔に保つことも重要です。
シャンプーは皮膚に付着した真菌の胞子を繁殖してしまう前に洗い落とすことができます。
ほかにも、余分な皮脂や皮膚の常在菌、アレルゲンなどを洗い落とすことで他の皮膚病を予防する効果もあります。
ただし、過度なシャンプーは皮膚を乾燥させてしまったり、炎症を引き起こしてしまう可能性があるため、獣医師の指導に従うことが大切です。
また、シャンプー後は、カビが繁殖しやすくなる湿った状態を避けるために、しっかりと乾かすようにしましょう。
わんちゃんが過ごす環境を清潔に保つことも大切です。
前述のとおり、真菌の胞子は環境中に広がりやすく、ご自宅の床や家具、カーペットなどに付着することがあります。
原因菌が潜んでいる場合、ご自宅の動物さんや飼い主様が同時に感染したり、治療をしても再感染してしまう恐れがあります。
そのため、ご自宅のわんちゃんが使っているクッションなどを定期的に掃除したり、部屋のカーペットに掃除機をかけたりすることは、皮膚糸状菌症の予防において不可欠です。
日常的なケアは皮膚糸状菌症の予防や早期治療に欠かせません。
上記を心がけることで、ご家族の健康を支えることができます。
まとめ
ご自宅のわんちゃんに脱毛やフケ、皮膚の赤みがみられる場合、皮膚糸状菌症に感染しているかもしれません。
皮膚糸状菌症は飼い主様や他の動物さんも感染リスクがあるため、初期症状が見られたら獣医師に相談し、適切な治療を受けることが重要です。
また、ご自宅でできるシャンプーや掃除などの日常ケアは感染を予防する効果があります。適切なケアを心がけることで、ご自宅のわんちゃんだけでなく、ご家族全員の健康を守りましょう。