ご自宅のわんちゃんとの生活において、臭いの発生は避けて通れない課題の一つと言えるでしょう。
臭いの発生は犬にとっては自然なものですが、ケアをすることで適度に緩和することが望ましいと考えられます。
獣医の観点から、なぜ犬は臭いを発するのか、その背後にある理由やその対策について探ってみましょう。
臭いの本質を理解することで、より健やかで快適な共生が可能となります。
犬の臭いの原因は、部位ごとに大きく異なります。
部位に応じたケアを行うことで、臭いの根本的な解消が可能となります。
しかし、体の全身から臭いがする場合もあります。
これは犬の皮膚にある汗腺と皮脂腺から分泌された汗と皮脂によるものです。
犬は体の構造上、分泌物による臭いを発しやすいため、適切なケアが臭いの予防と緩和に不可欠です。
今回は犬の体臭の仕組みと犬種による臭いの違い、そして対処するためのシャンプーケアについて解説します。
犬の臭いに対する理解と適切なケアにより、共に過ごす時間がより心地よく、健康的なものにしましょう。
犬・人間の汗腺の違い
一般的に汗を排出する汗腺には、主に体温調節を目的としたエクリン汗腺とフェロモンを分泌するアポクリン汗腺に大別されます。
エクリン汗腺は体温を下げるために、蒸発した際に皮膚を冷やすサラサラの汗を排出します。
分泌物は水と塩分で構成されており、ほとんど無臭のため、それほど体臭としては感じられません。
一方で、アポクリン汗腺から排出される分泌物は主にタンパク質や脂質から構成されており、よりじっとりしていることが特徴です。
アポクリン汗腺からの分泌物は皮膚の表面に出てきた際に細菌に分解されて臭気を発生させるため、体臭のもととなります。
人間と犬ではこれらの汗腺が体の違う位置にあるため、体臭の現れ方が異なります。
人間の場合、エクリン汗腺は全身にあり、アポクリン汗腺は体の一部にのみ存在します。
後者は主にわきの下や足の裏などに集中していることからも、アポクリン汗腺は体臭と関連していると言えるでしょう。
反対に、犬のエクリン汗腺は肉球などの限られた部分にのみ存在し、アポクリン汗腺は全身に広く存在します。
アポクリン汗腺が密集している背中や肛門周りなどが特に臭いを発生させやすいものの、分泌物自体は体の全体から表出します。
そのため、特定の部位しか体臭を発さない人間と異なり、犬は全身から臭いがしやすい体の構造をしていると言えます。
これに加え、犬は人間よりもシャンプーなどで体を洗う機会が少ないため、臭いトラブルが起きやすいのもうなずけるでしょう。
皮脂の分泌
アポクリン汗腺の分泌物自体も臭気を持っていますが、皮脂と混じることでさらに体全体の臭いを誘発します。
皮膚の独立した位置にあるエクリン汗腺と異なり、アポクリン汗腺は犬の毛包の中で脂を分泌する皮脂腺と繋がっています。
そのため、アポクリン汗腺から分泌物が出ると皮脂と混じり、汗と脂が混じったものが皮膚に表出します。
皮脂には栄養分が含まれているため、皮膚の常在菌や真菌(カビ)などのエサになります。
皮脂が過剰に分泌されると、菌の増殖を招いてしまいます。
犬の場合、全身にアポクリン汗腺と皮脂腺があることから、適度にケアを行わないと全身に菌が繁殖してしまうリスクがあります。
特に、湿っていたり毛並みが密集した部分がある場合、菌が繁殖しやすくなります。
菌が過剰に増殖した場合、二次的な問題として皮膚トラブルや炎症を引き起こす可能性があります。
例えば、マラセチア皮膚炎は皮脂の過剰分泌によりマラセチア菌が増殖し、皮膚のかゆみや赤みを引き起こします。
そのような皮膚炎は症状の一つとして臭いが挙げられるため、二次的な皮膚トラブルはさらに体臭が悪化させるリスクがあると言えるでしょう。
犬種による違い
汗や皮脂によって臭いを発生させることはどの犬種にも共通することですが、犬種によって体臭の強さが異なります。
特に、ダブルコートを持つ犬種やしわの多い犬種は、他の犬種に比べて臭いが強く感じられることがあります。
ポメラニアンやミニチュアダックスフンドなど、犬種によっては長くて硬い毛(上毛)の周りに柔らかくて短い毛(下毛)が数本生えているダブルコートを持っている場合があります。
ダブルコートを持つ犬種は、被毛が上毛と下毛の二重構造のため、一般的に毛が抜けやすいとされています(ダブルコートを持たない犬種は換毛期がありません)。
抜けた毛が絡まって毛玉ができると通気性が悪くなり、菌が繁殖するため臭いが発生しやすくなります。
そのため、ダブルコートを持つわんちゃんは定期的にブラッシングなどの日常的なケアが必要となります。
また、パグやブルドッグなどのしわの多い犬種も体臭が強くなりやすいと言えます。
しわの部分に皮脂や汚れがたまりやすく、臭いの悪化につながります。
特に夏場は蒸れやすくなるため、こまめなケアが重要です。
これらの特性を理解し、定期的なブラッシングやシャンプーなどのケアをすることで、ダブルコートを持つ犬種やしわの多い犬種の体臭を軽減できます。
適切なシャンプーケアを
全身にアポクリン汗腺があり、毛包の中で皮脂腺につながっているという犬の体の構造上、臭いのもととなる汗や皮脂をゼロにすることは難しいと言えるでしょう。
しかし、シャンプーによって皮膚表面の分泌物と皮脂を洗浄することで臭いを緩和したり、菌の繁殖による臭いの悪化や皮膚炎を防ぐことは可能です
まず、犬の皮膚や健康状態に合った適切なシャンプーを選ぶことが重要です。
特にシニアのわんちゃんや特定の皮膚トラブルを抱えるわんちゃんの場合、獣医師に相談して個々に合ったシャンプーを選ぶことを検討しましょう。
また、シャンプーを行う頻度も重要です。
一般的には月に1〜 2回が目安ですが、臭いや汚れのつきやすさは個々によって異なります。
頻度が不十分なシャンプーが脂汚れを落とすことができないのはもちろん、過度なシャンプーも皮膚に必要な皮脂を落としてしまったり、皮膚のバリア機能を低下させてしまう恐れがあるため、獣医師に相談したうえで頻度を決めることが強く推奨されます。
犬の臭い対策において、シャンプーは重要な役割を果たします。
適切なシャンプーの選択と使用方法に配慮しながら日常的なケアを行うことで、ご自宅のわんちゃんの健康と快適な生活環境をサポートすることができます。
まとめ
犬の臭いには汗腺からの分泌物、皮脂の分泌、犬種による被毛の違いなど、様々な要因が関与しています。
わんちゃんとの快適な生活のためには、汗と脂汚れを洗い流し、臭いの軽減することが大切です。
獣医師に相談し、個々に合った適切なシャンプーケアを行いましょう。